アフリカ開発会議~平和と安全保障を通じた安定性の促進~

スポットライト

著者:ポール・ナントゥリア

2022年8月22日

TICADのボトムアップ式の、マルチセクター協力による共同パートナーシップアプローチは、アフリカで歓迎されており、長期的なパートナーシップの価値を実現するモデルとして、開発、平和、安全保障を強化しています。

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Heads of State at TICAD 7.

横浜で開催されたTICAD7にて、各国首脳。(写真: 写真撮影)

アフリカ諸国は、8月27日から28日にチュニジアで開催される第8回アフリカ開発会議、通称TICADに向けて準備を進めています。50人近くのアフリカの指導者に加えて、200人を超えるアフリカの市民社会およびNGOの代表者、108人の地域および国際機関のリーダー、120人の貿易、産業、および技術革新のリーダーが参加する予定となっており、パンデミック以来、アフリカで開催される最大のハイブリッド外交イベントの1つとなります。TICADは、アフリカの平和と安全保障に対するアジアで主要な投資元で、年間ポートフォリオは3億5,000万ドルを超えます。

国連、国連開発計画、世界銀行、およびアフリカ連合委員会との共催となっているTICADは、多国間および多部門に重点を置いている点で際立っています。アフリカでの持続可能な開発目標の促進への取り組みは、平和構築、憲法制定、司法制度改革、および民主的統治に明確につながるものです

TICADは、日本のパートナーシップの中核となる原則、当事者意識(人民所有)に基づいてアフリカの優先事項に対応しています。TICADは、3年ごとに行われるサミットだけではなく、継続的な取り組みも行っています。日本は30年間、何千人というアフリカ人エンジニア、起業家、教育者を育成してきました。TICADは、多くのアフリカ人から国際協力と安全保障協力のモデルとなる仕組みだと言われています。

TICADの協議独自の側面を記録しようと、対アフリカ戦略研究センターが、長年にわたってTICADに貢献してきた10人を超えるアフリカおよび日本の専門家*に、その洞察と経験を共有してもらいました。

TICADとは?

TICADは1993年に始まった、この種のフォーラムとしては最も歴史のあるものです。アフリカ諸国に対して、東南アジア諸国とのパートナーシップに関する助言を行っている元ケニアおよび英国の外交官、ハンナ・ライダー氏によると、日本語で「包括的な」という言葉を使って言及されている多国間共同パートナーシップは、「他の多国間関係者がほとんど関与しない」中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)とはまったく異なるものだということです。

TICADでは、中国のFOCACの場合とは違い、政府与党が審査した市民団体、NGO、および専門家団体ではなく、値する実績に基づいて参加する団体が選ばれています。東南部アフリカ市場共同体(COMESA)に国際戦略の助言を行っているデニス・マタンダ氏は、この点が、大衆の関与と当事者意識の強化につながるのだと述べています。

若者向けの人的資本開発/教育に関するTICADセッション。(写真撮影:ケン・カツラヤマ

TICADでは、日本とアフリカの連帯を強調しています。日本の故安倍晋三元首相によると、「国際社会の大半がアフリカを忘れていた1990年代に、日本はアフリカを信じてTICADを立ち上げました。」実際、TICAD開催を前に、多くのアフリカ人が安倍元首相の死を悼んでいます。彼は、「同盟者」、「兄弟」、そして「アフリカへの特別な愛と親愛の情」を持った「特別な友人およびパートナー」として称賛されてきました。 2019年のTICAD7で安倍首相は、日本の民間セクターがインフラストラクチャと人的資源のためにアフリカに200億ドルを投資するよう奨励することを約束し、日本がこの目標をほぼ達成しています。

TICADはまた、日本国憲法の前文が「われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」と端的に示されているとおり、平和を求める新たな国際的アイデンティティを育むことを目指す上で、戦後日本の外交政策の一端も担ってきました。アフリカ連合委員会の元副委員長、エラストゥス・ムウェンチャ大使は、こう述べています。「TICADは日本の平和を求める意図を強調するもので、アフリカに代替案を示し、私たちが日本にとって重要で、私たちの問題が国際的に無視されることはないことを確信させてくれます。」ムウェンチャ大使は7人の日本の首相と協力し、その功績により日本の最高栄誉である旭日小綬章を授与しました。

日本にとっては、国産のソフトパワー、開発モデルおよび技術を発展させ、市場シェアを獲得し、国際フォーラムでアフリカの外交支援を先導し、新たな安全保障同盟を構築できる、といった複数の利益があります。

TICADはどのように組織されていますか?

TICADは、日本とアフリカで交代で3年ごとに開催されます。ただし、サミットは進行中の取り組みやイニシアティブの過程の一部であるため、通常のサミット以上の働きがあります。TICADの会合は多くの場合、政府、ビジネス、市民社会のリーダーが平等に参加できる世界経済フォーラムのようなものとなっています。毎回のTICADでは、その後3年間の優先事項と実施計画が設定されます。

次の会議までの間は、ニューヨークのUNDP本部内にあるTICADユニットが、国および地域レベルでの細かい計画実施に向けた専門的支援を行っています。日本とアフリカの市民団体は、国際連合工業開発機関が主催するアフリカ日本協議会、日本-アフリカビジネスフォーラム、日本アフリカ官民経済フォーラムなどの団体を通じて、あらゆるレベルで参加しています。これは、提案が承認される前に広く議論される日本の稟議書(大まかに言えば「ボトムアップ」)の慣行を反映したものです。

「日本のプログラムは、社会的包摂、若者の支援と能力開発、人間の安全保障と当事者意識、選挙を含む制度および政策の改革という 4 つの要素を中心に構築されています」

TICADは、社会、経済、人間の安全保障による平和および安定という3つの柱に焦点を当てています。分野別の領域は、「アフリカ・ピア・レビュー・メカニズム」や「アジェンダ2063」といったアフリカの戦略的優先事項に適合しています。

平和および安全保障の分野では、TICADは過去20年間にわたり、アフリカ連合と協力して、8か所の優れた平和維持訓練センターに資金と技術支援を提供し、アフリカ諸国で貢献する平和維持部隊に8回、自衛隊の訓練チームを派遣しました。また、 5,000人を超える司法職員を訓練して、54か国で司法および法規範の改革を支援した他、ソマリア、マリ、スーダン、南スーダンにおける平和維持ミッションで非戦闘の役割を担うアフリカ人部隊を支援するために、自衛隊教官を派遣しました。

民主的な統治は、TICADが関与するモデルで重要な位置を占めています。TICAD の「アフリカの平和および安全保障への新しいアプローチ」によると、アフリカにおける紛争は、政治権力の行使方法に原因があり、大部分、政治権力が恣意的に高度に個人専有化されることから引き起こされています。こうした統治構造では、独立した諸機関が憲法で守られた機能を果たすことができません。また、人口の大部分、特に大多数を占める女性や若者を、政治的、経済的、社会的に排除する結果にもなります。

したがって、日本によるプログラムは、社会的包摂、若者の支援および能力開発、人間の安全保障および当事者意識、選挙を含む制度および政策改革という4つの要素を中心として構築されています。

ナイロビで開催されたTICAD 6にて、元ナイジェリア大統領オルシェグン・オバサンジョ氏。 (写真撮影:ルワンダ大統領府

日本が民主化実現に責任を負っていることから、多くの日本人関係者にとって、次回のチュニジアでのTICAD開催は、居心地の悪い選択となりました。東京外国語大学アフリカ研究センター所長の武内進一氏は、次のように述べています。「チュニジアには独裁主義的な傾向がいくつか見られ、それは憲法草案に対する最近の抗議行動からも分かります。この草案では、高度に中央集権化された大統領制度が生まれることになり、ベン・アリ政権が崩壊して以降の民主主義の軌跡を蝕むものです。」竹内氏は、「アフリカの問題に関与する多くの日本人は、日本が非民主的な関係者または政府を支援していると見なされることに非常に敏感になっています。岸田文夫首相のチュニス訪問により、アフリカと世界全体の民主主義および良い統治に対する日本の確固としたコミットメントにもかかわらず、間違ったメッセージが伝わるのではないかと懸念しています。」

どのような側面が、戦略的パートナーシップとして最も特徴的ですか?

おそらく、安倍晋三元首相が始めたTICAD 5の成果、ABEイニシアティブ (アフリカビジネス教育イニシアティブに関する修士号および国際プログラム) が最も代表的なプログラムでしょう。毎年、何百人というアフリカ人学生が来日して、日本トップの大学院で教育を受けています。ABEイニシアティブは、10万人以上の大学生を支援する名声の高い文部科学省奨学金プログラムなど、その他の日本の奨学金イニシアティブとともに、アフリカの専門家や学者の共同体を構築するのに役立っています。

TICADのもう1つの重要なプログラム、アフリカの民間セクター開発のための協同イニシアティブ (EPS4A) は、アフリカの民間セクターの発展のため、2005年に日本とアフリカ開発銀行 (ADB) によって共同設立されました。両者が対等に130億ドル以上を投資しており、アフリカ側が大きな共同所有権を有しています。

「TICADの特徴は、平和構築に重点を置いている点です。」

TICADは、平和構築に重点を置いていることでも特徴があります。アフリカ施設部隊早期展開プロジェクト (ARDEC) の三角パートナーシップ・プロジェクトでは、アフリカの平和維持要員に重機の保守と整備に関する訓練を行っています。TICAD は、ユネスコ・アフリカ能力開発国際研究所との提携により、高校から大学レベルまで、アフリカの教育カリキュラムに平和教育を組み込むことも支援しています。現在のプログラムサイクル、「平和強化プログラム」では、市民社会の関係者に支援を行うこと、あらゆる開発プログラムに若者と女性が参加できるように力を貸すこと、そして、人権機関を支援することに焦点を当てています。

アフリカ人はどのように力を行使してきましたか?

TICADのADBとの折半型の資金調達モデルでは、日本がパートナーを単なる受け手ではなく、主体として扱うというアプローチが重要とみなされています。これは「相互関係」と呼ばれるものです。ムウェンチャ大使は、こう述べています。「提供する側と受け取る側との関係は本質的に非対称なものです。ですが、日本が共同所有権を主張することで、アフリカの利害関係者は、他の利害関係者との場合よりもより大きな力を行使できるようになります。」また、ハンナ・ライダー氏は、TICADにアフリカ人以外および日本人以外のパートナーが関与していることから、アフリカ人がさらに大きな力を行使できるのだとも述べています。「アフリカ人は、そうしたパートナーにインフラプロジェクトへの共同出資を依頼したり、自らの資金調達力を用いて、日本企業にとりわけアフリカの製造業に投資するよう促したりすることができます。」

TICAD1以降、アフリカの市民社会とNGOは、政府関係者と対等な立場で参加できるUNDPのTICADマルチセクター・ダイアログで直接、声を上げてきました。各ラウンドに先立ち、TICADはNGO団体からの申込者を会議会場で行われる1か月間の交流プログラムに招待し、市民がより長く関与できるプログラムをサミットに準備しました。

ただ、ハンナ・ライダー氏は、アフリカ政府が往々にして消極的すぎると述べています。「アフリカ政府は、相手から議題を設定してもらい、通常は見えない軍事的解決への超えてはならない一線が迫った時だけ参加する傾向があります。」「ですから、FOCAC 8に先立ち、アフリカと中国の独立した作業部会がアフリカ連合の戦略を定めたように、そこから教訓を得て、利害関係者はアフリカの立場を明確に打ち出す必要があります。」

リスクを嫌う日本人のアフリカに対する認識を変えるには、より力のあるアフリカの機関も必要となります。日本とアフリカの貿易額は、年間240億ドルと控えめです。しかし、日本は、FDIと経済発展に対して、質的に異なるアプローチを求めています。武内進一氏によると、「日本が設備投資で目指しているのは、アフリカ側の債務負担を低く抑え、アフリカの民間セクターを支援、強化し、受益者が優先順位を特定できるようにすることです。」

「ペースが遅く、ためらいがちなのは私たち日本人の遺伝子ですが、いったん始めると、効果的に長続きさせられます。」参加したり参加を取りやめたり、ということはしませんから。」

デニス・マタンダ氏も、次のように述べて同意しています。「日本によるCOMESA支援はモデルとなるものです。受益国と利害関係者があらゆる段階で関与しているという事実は立証されています。日本側も依存関係を作ることを嫌うようです。日本の自動車技術を見れば、保守管理やスペアパーツなど、製造前後でここ、アフリカにつながりがあることが分かります。また、アフリカで見られる日本の技術のほとんどは、80年代後半からアフリカの輸出業者が拠点としてきた大阪や神戸などの都市から、アフリカ人が調達、輸出したものです。」

ナイジェリアのアフリカ日本学会のフィリップ・オラヨク氏は、次のように述べています。「日本人から訓練を受けたアフリカ人専門家は、日本の投資家を引きつけ、日本政府により戦略的に関与してもらうための取り組みに関与するだけで、重要な役割を果たすことになります。「日本のアプローチは非常にユニークなものです」と、東京を拠点とする政策研究大学院大学の大野健一氏は語っています。「しかし、アフリカ諸国は忍耐強くなくてはなりません。「ペースが遅く、ためらいがちなのは私たち日本人の遺伝子ですが、いったん始めると、効果的に長続きさせられます。参加したり参加を取りやめたり、ということはしませんから。」

TICAD 8以降のアフリカの優先事項は?

アフリカ諸国は、経済変革と紛争解決に重点を置いています。つまり、「アジェンダ2063」と 「紛争のないアフリカ2030 (Silencing the Guns 2030)」が今後の主要な枠組みになります。したがって、4 つの大きな要素がTICADパートナーシップを形成することになります。まず、「アジェンダ2063」の重要な柱、アフリカのインフラストラクチャギャップを埋めることを継続的に行うことが必要です。G7の「ビルド・バック・ベター・ワールド (B3W) 」では、日本は、債務を低く抑えながら資金を利用可能にできる力を持っています。

TICADの画像とロゴ。

2つめの優先事項は付加価値です。このために日本企業は、バリューチェーンに投資して、アフリカの輸出品の質を高めなくてはなりません。

3つ目は、紛争解決に貢献できるツールとして、アフリカ待機軍組織を運用化することです。TICAD7で、日本はAUの 「紛争のないアフリカ」イニシアティブを支援することを約束しました。アフリカの角、北アフリカ、サヘル、スーダン、南スーダンの5つの指定された優先地域における紛争解決の取り組みを支援することが、この一連の取り組みの中心的な特徴となっています。

最後に、アフリカの利害関係者は、人材育成、技術移転、および民間セクターの能力構築におけるTICAD独自の強みをより有効に活用するよう推進することで、戦略的な関与を高める方法を模索していきます。TICADは、市民から意見をもらえるような構造になっているため、この点で役立ちます。

*この総合的働きへの専門家の貢献者:

  • エラストゥス・ムウェンチャ大使は、アフリカ連合委員会の元副議長で、アフリカ側の重要なTICAD立案者です。
  • 北野尚宏氏は、国際協力機構(JICA)研究所の前所長として、そして、国際協力銀行では日本銀行の開発援助担当者として、TICADの重要な要素を形作りました。
  • デニス・マタンダ氏は、モーゲンソー・スターリングの社長で、東南部アフリカ市場共同体 (COMESA) に国際戦略についての助言を行っています。
  • ハンナ・ワンジー・ライダー氏は、Development ReimaginedのCEOで、東南アジア諸国との協力についてアフリカ諸国に助言を行っています。
  • 武内進一氏は、東京外国語大学アフリカ研究センターの所長です。
  • ジャン=クロード・マスワナ氏は、京都にある立命館大学の経済学教授です。
  • フィリップ・オラヨク氏は、西アフリカ暫定司法センターのコーディネータで、ナイジェリアのアフリカ日本学会の会員です。
  • 大野健一氏は、東京の政策研究大学院大学の経済学教授です。
  • ポール・ナントゥリア氏は、アフリカ戦略研究センターのリサーチアソシエイトで、TICAD 3およびアフリカにおける平和促進に関するTICADの会合に参加しました。

その他のリソース

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